練習する子の育て方2024年

毎月教室で発行しているニュースレター掲載しているコラムのうち2023年のものをこちらにも掲載いたします。

2015年8月から2019年12月までのものはこちらに掲載しております。

2020年のものはこちらに掲載しております。

2021年ものもはこちらに掲載しております。

2022年ものもはこちらに掲載しております。

2023年のものはこちらに掲載しております。

 

【目次】

110.「タイパとは真逆のピアノ。10年続けることで見える世界がある。」2024年2月号

111.「やる気があるかどうかではなく、やる気を出したいかどうか。」2024年3月号

112.「安心して失敗できる雰囲気を作ること。」2024年4月号

113.「成長したい気持ちを信じて励まし続けること。」2024年5月号

114.「練習を習慣化すること。」2024年6月号

115. 「発表会は、いつもよりがんばって上達を実感できる機会です。」2024年7月号

116.「たとえスムーズに弾けていなくても、がんばっているのだと思う。」2024年8月号

117.「指使いに気をつけて譜読みをすると、より楽しく美しく弾けます。」2024年9月号

118.「心地よい音楽との付き合い方を作ることがひとつのゴール。」2024年10月号

119.「意欲は育てるものだと思う。」2024年11月号

120.「無理強いしないことと放っておくことは違うのです。」2024年12月号

「タイパとは真逆のピアノ。10年続けることで見える世界がある。」2024年2月号

長く続けている生徒さんたちには、感心させられることが多いのです。受験期にも休まずにレッスンを続けていたり、休会退会をしてもまた復帰したり、部活で忙しくてもコツコツ続けていたり、これまでやっていなかった合唱コンの伴奏者オーディションを受けて伴奏者になったり、学校の先生に指名されて卒業式で伴奏することになったりと、それぞれにピアノを楽しんだり生かしたりしているのですね。

10年もしくはそれに近くピアノを続けている生徒さんたちの生活には、しっかりとピアノが根付いていることを感じます。もちろん長く続けられるのは、ピアノが好きだからだとは思いますが、そうは言っても常に好きだと思い続けていられるわけではないでしょう。練習がめんどくさくなることもあるでしょうし、ピアノどころではないほど忙しかったり疲れてしまったりすることも当然あるはずです。それでも、それはそれとして淡々とやり続けて、長くピアノを続けているのはすごいことですね。

ピアノはすぐに上手になる習い事ではありません。いわゆる「タイパ」とは真逆で、効率重視の短い時間で身につくものではないのですね。じっくりと腰を据えて、地道にコツコツと積み重ねていくものですから、当然時間がかかります。でも長い年月をかけて身体にしみこませたものは、簡単に失われることもありませんね。

とはいえ子どもたちは忙しいし、何か他のことに真剣に取り組みたくなることもあるでしょう。ですからピアノを続けることだけが良いことだとは思わないのですが、10年続けたら見える世界があるのは確かなことだと思います。

10年続ける生徒さんはそんなに多くはありません。実際それだけ大変だということで、だからこそ重みがありますね。長い時間の中で熟成されたものが自分の血肉となって、付け焼刃ではない本物の力になるのかもしれないと思ったりもします。忙しい時期も大変な時期も無理しすぎずに乗り越えて、じっくりと長く続けていけたらいいですね。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「やる気があるかどうかではなく、やる気を出したいかどうか。」2024年3月号

先日生徒さんから、「やる気が出ない時はどうしたらいいですか?」という質問を受けました。練習する気になれない時、気分に流されてやらないことを選ぶのではなく、どうすれば練習出来るか考えるなんて、素晴らしくて嬉しい態度ですよね。

それで色々話しているうちに、「やる気が出ない」のと「やる気が無い」のは、全く違うことなのだと思いました。子どもが練習しないでいると、この子はやる気が無いのだと思ってしまいがちですが、「やる気が出ない」のはその時の気分で、「やる気が無い」のは、もっと長いスパンでの意欲の低下や欠如なのかもしれません。

そういえば以前、やる気が出ない時にどうしているか生徒さんにきいてみたことがあるのですが、その中に、「お母さんに言ってもらう」という答えがあって驚いたことがあります。子どもにとって、練習するように言われるのは嫌なことだろうと思っていたのですが、そうではない場合もあるようなのです。これは、やる気になれない時も、やる気を出したいと思っているということで、一見だらけているだけに見えていても、全くやる気が無いということではないのですね。

やりたい気持ちはあっても、何となく腰が重くなるというのはごく普通のことです。ピアノの練習にはエネルギーがいりますから、ついYouTubeを見るというような楽な行動に走ってしまうというのも、当たり前のことではあると思います。

けれどもその行動の奥にやる気を出したい気持ちがあれば、色々な工夫をしてピアノに向かうことは出来ますね。時間を決めたり、生活のルーティンに組み込んだり、練習が終わったら自分にご褒美を上げることにしたり、それからお母さまに声掛けをしていただいたり。

いつも感じているのは、ピアノを続けられるかどうかは、究極的にはピアノに向かう意志があるかどうかにかかっているということなのですが、そういう意志のことを「やる気」と言い換えてもよいように思います。そしてその意志は、周りの大人の働きかけで育んでいけるものだとも思うのですね。

出来ている所を見つけて褒めること、出来る子だと思い続けること、その子のピアノのファンになって楽しむこと、また手助けが必要だと思った時には、声をかけたり練習に付き合ったりすること。何より、その子を大切に思っていて、大切なその子のピアノだからピアノも大切に思っていることを伝えることは、ピアノに向かう意志を支える一番の根っこになるのではないかと思います。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「安心して失敗できる雰囲気を作ること。」2024年4月号

ピアノが上達するために大切なことのひとつは、安心して失敗できる雰囲気を作ることではないかと思います。というのは、失敗することに抵抗感を感じると、挑戦を嫌がったり間違いを認められなくなったりして、結果的になかなか進まなくなることがあるのです。

テキストをやっていて、急に難しくなることはあまりありませんが、それでも時々、次の曲にとても苦労することもあります。そういう時、挑戦することへの抵抗感を感じていると、「出来ない」とか「やりたくない」と言い始めたり、弾けていなくても「出来てる」と言い張ったりして、なかなか上達できなくなってしまいかねないのですね。

失敗することへの抵抗感には、出来ない自分を見たくないという気持ちと、もうひとつ、周りの大人をがっかりさせたくないという気持ちもあるようです。

誰だって失敗するのは嫌だし、失敗が続けば自分は出来ないのではないかという不安感も感じてしまいます。けれども、失敗は成功への過程のひとつなのだと声をかけ続けられていれば、失敗しても大丈夫だと思えるようになるかもしれません。

子どもにとって周りの大人は、大袈裟に言えば自分の命を握っているとてつもなく大きな存在ですから、その人の気持ちをいつもどこかで気にしてしまうのは当然です。怒られないか、がっかりさせていないかと不安になることのないように、大人自身も、「失敗は成功のもと」と心に刻んでいるのが良いのかもしれないと思います。「失敗は成功のもと」というのはピアノにおいても本当にその通りで、失敗を繰り返しながら自分で納得することで身につくものは多いのですね。

安心して失敗できる雰囲気の根底にあるのは、もし仮にどうしても出来るようにならなかったとしても、その子が大事な子であることには何も変わりがないのだと思っていることだと思います。失敗しても、出来るようにならなくても、自分は大切にされていると感じられることで、子どもは安心して失敗しながら挑戦を続けられるのではないでしょうか。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「成長したい気持ちを信じて励まし続けること。」2024年5月号

毎日練習するというのは、上達するために欠かせない大切なことです。とはいっても、もっと遊んでいたかったり、疲れたりめんどくさくなったりして、なかなか出来ないことでもありますね。それで周りの大人には、練習するための働きかけが求められるのですが、これがなかなか大変な仕事です。

声掛けに応じていつも素直に練習してくれればよいのですが、そうならないこともあるでしょうし、そんな状況が続けばこの子はやる気がないのだと思いたくもなりますね。けれどもそういう時に、諦めてしまうのではなく、本当は上手になりたい気持ちを持っているのだと考えていただけたらと思います。

「子どもは成長したい気持ちを持っている」と私は思っています。例えば、縄跳びが与えられれば跳べるようになろうとするのが子どもで、10回跳べるようになれば100回を目指したくなるものだと思うのですね。ピアノだって同じで、弾けるようになりたい、上手になりたいと、どんな子どもも心の底では考えているのだと思います。

ピアノの場合は覚えることも多いし、すぐには出来ないことも多いので、意欲を保ち続けるのが大変なのは当たり前なことです。ちょっと停滞することもあるし、やる気が無くなったように見えることもあると思います。けれどもよく見ていると、弾きたい気持ちを見せる瞬間があると思うのですね。そんな時に励ますことが出来ると、またやる気が復活してがんばれるということもあると思います。

先日たまたま見た教育関係の学会誌の中に、「賞賛と信用は子供の好意的な行動と 積極的な取り組みの原動力である」と書かれている論文を見つけて、そうそう!と膝を叩いてしまいました。小学校の英語の授業で、ほめたり励ましたりして安心して学べる環境を整えた結果、子どもたちが積極的に授業に参加するようになったというのです。

誰だって信頼されれば嬉しいし、励まされれば意欲も湧きますね。

その上で思うのは、信頼や励ましは、練習させるためのテクニックではなく、子どもの成長したい気持ちを信じる大人自身の信念からくるもので、それは子どもの成長したい気持ちに寄り添うことだということです。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「練習を習慣化すること。」2024年6月号

練習は、やりたいからやるものではありません。などと言うと誤解を招いてしまいそうですが、やりたいとかやりたくないとかいう「気持ち」や「気分」でするものではないということです。よほどの才能に溢れた一握りの人は別かもしれませんが、一般的には、やりたい時もあればそうでない時もあるのが普通だと思います。それこそお天気にだって左右されてしまうのが、人間の気分というものですよね。

「ピアノが好きで上手になりたいなら練習するはず」と考えて、やらないのはあまり好きではなくてやる気がないからだと思ってしまいがちですが、そんなに単純ではなさそうな気がします。ピアノが弾けるようになりたいと思っていても、「今はやる気分じゃない」と感じるのはよくあることで、その時々の状況や気分で「ピアノをやりたくない」と言うのは、子どもにとっては普通の感覚ですね。

ですからそこは発想を転換して、「やりたいからやる」のではなくて「やることだからやる」にした方が良いと思います。「6時になったらやる」とか「ご飯の前にやる」とか決めて、学校の宿題と同じようにルーティン化してしまうのが良いですね。もしかしたら押し付けに感じるかもしれないのですが、少なくともピアノを習うと決めた時点で、子どもの中にはピアノが弾けるようになりたいという気持ちがあるのですから、それを後押しする方法だと考えて良いと思います。弾けるようになりたいという願いを現実的な目標に変えていけるのが、習慣の力ですね。

練習を習慣にすることで、ピアノを弾いている自分というアイデンティティーも生まれて、より自分に自信を持てるようにもなりそうです。毎日ある程度の時間をとって練習を続けていけば、一般的にピアノが弾けると言われるレベルには到達するものですし、弾けるようになるにしたがって、もっと上手になろうとする意欲も生まれて、ピアノとともに歩むことが自分の意志にもなりますね。

練習を習慣化して、気分に左右されずに続けることはおそらく一番楽な上達への道だと思います。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「発表会は、いつもよりがんばって上達を実感できる機会です。」2024年7月号

発表会が近づいてきました。何度も参加している生徒さんたちは、そろそろ気合を入れて練習する時期なのが分かっているようで、ここ最近の進歩が素晴らしいです。

生徒さんたちの毎日は、塾や部活や習い事で忙しいですから、ピアノだけに集中するわけにはいきません。いつも全てがんばり続ければ疲れてしまいますから、毎日出来る範囲で練習すればよいのだと思います。けれどもさすがに本番間近になると、ゆったり構えているわけにもいかなくなります。そこでスパートをかけるわけですが、そういうタイミングがわかっているのはさすがの経験値で、こうやってメリハリのある時間を過ごすことで、ピアノが趣味として定着していくのかもしれないと思います。

というのは、毎日少しずつの練習を淡々と続けるだけでは、なかなか自分の進歩や上達を感じる楽しさを味わう機会が持てないのではないかと思うのです。もちろん少しずつ積み重ねていくうちに、ある時難しい曲が弾けるようになっている自分に気づくようになるものですが、いつもより長い時間集中して練習すると、急激な上達が実感できることも確かです。もしかしたら、弾けるようになっていく自分を実感して、さらにがんばろうと思える楽しさは、「ちょっと大変だけれど倒しい」という負荷のかかった楽しさなのかもしれませんね。

何度も参加している生徒さんたちのラストスパートの素晴らしさは、そんな経験をしてきたことからくる、ひとつの自信の表れだとも思います。もちろんその中には、練習不足で不本意な結果になった経験も入っていて、練習しなければ実力が発揮できないことも理解しているのだと思います。

発表会に参加する生徒さんたちは今回も実力を発揮できるように、あと1か月もうひとがんばりしてみましょう。今回不参加の生徒さんたちも、夏に向けていつもよりちょっとがんばってみるのも良いのではないかなと思います。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「たとえスムーズに弾けていなくても、がんばっているのだと思う。」2024年8月号

発表会が目前に迫って、慌てている保護者の方もいらっしゃるかもしれません。なかなかスムーズに弾けない様子を見ていれば、練習不足を叱責したくなることもあるだろうと思います。けれどもそこでひと呼吸して、まずは今出来ている所を認めてあげていただけたらと思います。

今の仕上がり具合がまだまだであったとしても、とにかく何とか弾けているのは、その子が練習をしたからです。練習量は足りていないかもしれないのですが、本人としては「練習した」という気持ちでいるのかもしれません。ならば、「もうちょっとたくさん練習すれば、もっと上手に弾けるようになる」というのが、その子にとっては納得感のある言い方になるのでではないかという気がします。

自分でももっと練習しなければと思っているのに、なかなか出来ない場合もありますから、そういう時は声掛けをしてあげたり、練習に付き添ってあげたりするのもとても良いことだと思います。そんな対応が真剣であるのと同時に明るいものであれば、子どもにとってもちょっと特別な楽しい時間になるかもしれません。発表会に向けての親子での特訓が、良い思い出のひとつになったら素晴らしいですよね。

練習出来ても出来ていなくても、ピアノを続けていて、まして発表会にも参加するというのは十分にがんばっているということなのだと思います。大人の思う「練習している」という基準とは違うかもしれませんが、まずはその子なりにがんばっていることを認めて、その上でもっと練習できるように対応していきたいですね。

究極的なことを言ってしまえば、私たちはプロの演奏家ではないのですから、間違えたって良いのだと思います。音楽を楽しんで人生をより豊かにするためにピアノを学んでいるのなら、間違えないことより、楽しむことを考えましょう。ピアノは間違えないために弾くのではなく、楽しむために弾くものです。この教室の発表会は、生徒さんたちを励まして育てる場だと考えています。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「指使いに気をつけて譜読みをすると、より楽しく美しく弾けます。」2024年9月号

発表会が終わって、新たな曲に取り掛かり始める生徒さんも多いと思いますので、譜読みをする時にはぜひ気をつけた方が良い、おすすめポイントについてお伝えします。

結論から言うと、それは指使いです。「また指使い?」と言われてしまいそうですが、何度でも繰り返したくなる位、大切なことなのです。

指使いは漢字の書き順のようなもので、同じ書き順で何度も書き取りをしているうちに手の動きとして字を覚えるのと同じように、同じ指使いで何度も練習しているうちに指がその動きを覚えるのですね。

また、指使いには弾きやすくて自然な動きとしての定型がありますから、指示されている指使いで練習して定型を身体に沁み込ませることは大切です。

そして指使いは、その曲のその部分をスムーズに美しく表現するためのひとつの提案でもありますから、これを守ることでより美しい表現方法を学ぶことも出来るのです。

特に、5指のポジションで弾いている初心者の子どもの場合は、指使い通りに弾くことで鍵盤感覚を身につけることは、スムーズに弾けるようになるためにとても大切ですから、絶対に外したくないポイントでもあるのですね。

音の高さやリズムが合っていれば弾けたと思ってしまいがちですし、実際指使いまで気が回らないことも多いと思いますが、実は指使いに気を付ける方が、時間的にも早く弾けるようになるし、仕上がりも良くなります。まずはどの音をどの指で弾き始めるのか、5指をどこに置くかチェックして、音もリズムも指使いも見ながら、片手ずつゆっくりと練習を始めてみましょう。最初から完成形を目指すのではなく、ゆっくりと丁寧に身体に馴染ませる過程を経ることで、より楽しくより美しい演奏に近づけるのだと思います。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「心地よい音楽との付き合い方を作ることがひとつのゴール。」2024年10月号

ピアノレッスンのゴールはどこにあるのだろうと、時々考えます。ピアノを習うのは、弾けるようになりたいからで、ピアノが弾けたら楽しそうだという憧れを抱いて、子どもたちは体験レッスンにやって来ます。けれどもいざレッスンを始めてみると、いつまでも続く同じような道の中で、飽きることも面倒くさくなることも出てきます。実際ピアノどころではない忙しさに忙殺されることもありますね。時間も体力も限られていますから、そこでやめるのも一つの選択で、選んだ道を歩んでいくことがその子の正解なのだと思います。

一方でやめずに続けていくと、やがて見えてくるものがあるようにも感じます。それは、ちょっと堅苦しい言い方をすれば、その子にとってのピアノの意味や価値です。もちろんそんな難しい言葉で何かを発見するということではなく、ただ生活のどこかにピアノが位置づくという感じなのですね。おそらくそれは、自分にとって心地よいピアノとの関わり方が出来たということなのだと思います。

そんな生徒さんたちを見ていて、自分にとって心地よいピアノとの関わり方を見つけることが、レッスンのひとつのゴールなのかもしれないと思いました。音楽のジャンルはたくさんあって、今はその関わり方も多岐にわたっていますから、皆が同じ方向を向いて、同じような音楽の同じような高みを目指す必要はありません。

そう考えると、「ピアノが弾ける」とは、「自分の望むようにピアノを関わって楽しめること」で、心惹かれる音楽を、ピアノで表現することを楽しみ続ける力がつくということかなと思えてきます。

「自分の望むピアノとの関わり方」というものは、最初から出来上がっているものではありません。小さい子どもでも、ピアノへの漠然とした憧れは持っていますが、やはり現実的ではないのですね。自分はどんな風にピアノを関わりたいのかという意志のようなものは、音楽の基礎、ピアノの基礎、音楽の感じ方や表現の仕方を学んでいく中で作られて現実化していくものだと思います。

レッスンで学ぶのは主にクラシックですが、長い歴史の中で色あせることなく息づいてきたクラシックには、人間の普遍的な美意識が反映されています。その感じ方を学んだり、感じたものを表現するテクニックを学んだりすることは、どんな音楽を楽しむ上でもおそらく有益です。

毎日の練習を積み重ねていく過程を通して、自分にとって心地よいピアノとの付き合い方を見つけて、自分の望む音楽を、望んだ通りに弾いて楽しめる力がつくまで、もし時間と体力が許すなら、続けていけたいいですね。そしてもちろんその先には、さらに音楽の深さを感じたりそのためのテクニックを身に着けたりといった音楽の道はあって、レッスンは続いていくのです。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「意欲は育てるものだと思う。」2024年11月号

子どもがなかなか練習しない時、やる気がないのだと思ってしまいがちですが、やる気(意欲)というものは、育てるものだと思います。「練習させる」ことはもちろん大切ですが、「練習しようとする気持ちを育てる」ことは、もっと大切だと思うのですね。

習い始めの子どもは意欲に溢れていますが、特に小さいうちは、すぐに上手になれると思っていたり、毎日の練習が欠かせないことを実感していなかったりするので、最初の意気込みが落ち着いてくると、途端に練習を面倒くさがるというのもありがちなことです。時々、コツコツと地道な練習を重ねることの意味を最初から理解していて、何も働きかけをしなくても順調に伸びていく子もいますが、そうでない場合の方が普通で当たり前ですね。

けれどもそこで、何か気分の上がる出来事があれば、またひとがんばり出来ると思うのです。例えば、ちょっと弾いてみたら上手な所があって褒められたり、「〇〇ちゃんのピアノが好き、聴きたい」と言ってもらえたり、「毎日ピアノを弾いてる〇〇ちゃんはすごいね」と言ってもらえたりすると、やはり子どもは嬉しいですよね。

意欲を育てるというのは、ちょっとした機会をとらえて、ほめたり認めたり励ましたりすることの繰り返しで、そんな働きかけが気持ちの貯金となって積み重なって、ピアノを弾くことへの前向きな姿勢を作っていくのではないかと思います。それは、周りの大人に出来る、大きなサポートですね。

もちろんいつも、そう上手くいくわけではないかもしれませんが、子どもたちは成長したい気持ちに溢れていますから、続けていくうちに練習が定着していくのではないでしょうか。「自分には出来る」「やり遂げる力がある」と思えるようになれば、がんばってみようという意欲も、自分の意志として確固としたものになってくるのではないかと思います。

教育や心理の専門家の方たちは、意欲の向上について色々教えてくださっていますから、そんな本を読んでみるのも良いと思いますが、私たちが日常的に感じていることの中にも、子どもの意欲を育てる方法はたくさんありそうです。毎日の生活の中で、色々な働きかけを試してみる価値はありそうです。

叱咤激励することで子どもをコントロールできる期間は、そんなに長くありません。無理やりにでも練習させられる数年の間に、周りからの評価を受けられるまで上達出来て、自分でもピアノが自信のひとつになっていれば、自覚的に練習をするようになると思いますが、それは誰にでも通用するやり方ではないようにも思います。北風と太陽ではありませんが、どちらかと言えば、励ます関わり方をした方が、細々とでも続けられる力が育つように感じています。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!

 

「無理強いしないことと放っておくことは違うのです。」2024年12月号

時々頂く質問に、「嫌がるのを無理に練習させるのも良くないと思うので、子どもに任せてよいでしょうか?」というものがあります。無理やりやらせることでピアノ嫌いになってしまうのは一番悲しいことだと思うので、その子のピアノに関心を持ちながら子どもに任せるというのも、ひとつのあり方だと思います。

ただ踏まえておかなければならないのは、「ピアノは練習しなければ上達しない」ということと、「上達が感じられなければ楽しくない」ということです。「やらない→出来るようにならない→楽しくない→やりたくなくなる」という負のスパイラルにはまってしまうのは、避けたい所です。

ではどうしたらよいのかというと、意欲を育てることを考えるのが良いと思います。自分からやりたいと思える気持ちを作ることを考えたいのですね。おそらくこれは、無理にやらせるよりも難しいことで、大人の忍耐力が求められると思いますが、かけがえのないこの子がピアノを通してより幸せに生きてもらいたいという願いを持っていれば、可能なことだと思っています。

練習しやすい環境を整えること、スケジュールを決めたりして練習をシステム化すること、出来ている所を認めたりその子のピアノのファンになったりして気持ちをサポートすることなど、出来ることは色々あります。小さいうちは練習に付き合って一緒にやってあげるのも、とても良いサポートですね。

もちろん親子ともにプロの演奏家を目指している場合は、そんな悠長なことは言っていられなくて、無理強いでも何でもとにかく練習することが必要かもしれません。そういう場合は子どもの側にも「練習しなければならない」という意識があって、その時は嫌がっても実はそういう対応を受け入れているのだと思います。

「意欲を育てよう」と、ある意味気長に構えていても、結果的にピアノが大好きになって音楽の道に進むこともあります。自分の意志として音楽を選んだ子はよく練習しますから、決してそれが遅すぎる選択にはなりません。

無理強いしないことは、放っておくこととは違います。意欲を育てるという、より難しくて大変だけれど、やりがいのあることなのだと思います。

練習を通して、ピアノが弾ける喜びと自信をさらに大きく育てましょう!(^^)!